今回は最近取り入れている施設が多くなってきた高度精液検査と呼ばれている酸化還元電位検査(ORP検査)とDNA断片化指数検査(DFI検査)について解説したいと思います。
酸化還元電位検査(ORP検査)
精液の酸化ストレスを測定する検査です。”酸化ストレス”とは体内の活性酸素が抗酸化作用を上回り細胞にダメージを与える現象の事を言います。
精液においては精子の細胞膜やDNAに損傷を与える為、これらが男性不妊の1つの原因である事が分かってきました。
活性酸素とは車に例えると排ガスのようなもので生きている以上必ず作られます。これを抑える機能として抗酸化作用があるのですが、加齢や喫煙、紫外線、睡眠・運動不足、過度な飲酒などを原因として活性酸素の量は増加、抗酸化作用は低下します。改善策としては生活習慣の見直しや食事やサプリから抗酸化物質を摂取する事が挙げられます。また、精索静脈瘤が指摘されている方は手術する事で改善する報告が挙げられています。
【抗酸化物質】
ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド類(β-カロテン、リコピン、アスタキサンチン)、ポリフェノール類(アントシアニン、イソフラボン、サポニン、セサミール、ルチン、カテキン、タンニン)、コエンザイムQ10、L-アルギニン、L-シトルリン
DNA断片化指数検査(DFI検査)
精液中にDNAの損傷した精子の割合を調べる検査です。この値が高い場合、受精やその後の胚発育に不利となる事が分かっています。
また、上記のORP検査でわかる酸化ストレス値が高い場合にはこの値も高くなる事が分かっています。
精子のDNA損傷は、受精後に卵子由来のDNA修復機構が働きますのである程度の回復は可能です。しかし女性が高齢の場合には、この機構の能力の低下が指摘されています。
この検査は同時に精液中の未熟な精子の割合を示すHDS値の測定も行っている事が多いです。こちらもDFIと同じく、高い場合には不妊の原因となることが分かっています。
筆者より
精液検査のオプションとして用意されている2つの検査をご紹介しました。一般的な精液検査で異常が見られない方も、これらの検査で異常が見つかる場合があります。改善方法としていくつか取り上げましたが、生活習慣の見直しやサプリ、漢方での体質改善などは体に悪いことはないのですが、精液改善のエビデンスとしては弱く、現在明確な物は精索静脈瘤の手術のみとなっています。また精子の質の改善は3カ月から半年を要するとされています。精子の質の改善は妊娠率のベースアップにつながりますので、男性は積極的に取り組む事をお勧めします。
タイミング療法や人工授精では、より正常な精子が多いことで妊娠の確立は高くなります。体外受精においても、もちろん妊娠率は高くなるのですが、こちらでは精子調整の段階である程度精子の厳選をしますので正常な受精につながる可能性が高いです。また顕微授精の場合では、精子のDNA損傷と精子の形態異常は相関がある事が分かっているので、施設によって顕微授精での精子選択基準は様々ですが、ある程度のふるい落としを行う事が可能です。
以上の特性から体外受精へのステップアップをより効率的にする検査であると筆者は認識しております。