タイムラプスインキュベーター

不妊治療

昨今、多くの施設で取り入れられているタイムラプスインキュベーター。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
施設によって全ての患者様に使用していたり、オプションとして患者様に選んで頂く形で導入していたり、培養期間の一部のみ使用していたり、その扱いは様々です。
今回はこのタイムラプスインキュベーターの解説をさせて頂きます。

インキュベーターとは?
不妊治療においてインキュベーターは培養器の事を指します。体外受精では採卵を介して採取した卵子を精子と掛け合わせ約7日間培養します。これを胚培養と呼びます。この際、卵の発育に適した環境で保管する為には、体内に近い環境を再現する事ができる培養器/インキュベーターが必要になってまいります。

胚培養の課題
培養中の卵は、培養器に入れっぱなしではなく定期的に観察が必要です。
”正常な受精が出来ているかを確認する”
”発育を日々観察し妊孕性の高い卵を選別する”
”移植に適した発育段階を見計らい凍結保存する”
これらの観察は移植の妊娠率を高める、流産率を下げるエビデンスがあり胚培養において必須とされています。
しかし、観察する為には1度培養器から取り出す必要があります。わずかな時間ではありますが、開閉した培養器や培養液の環境は崩れてしまい卵にストレスを与えます。また、これらが元通りになるまで数時間を要してしまいます。

タイムラプスインキュベーター
上記の胚培養の課題を解決するべく開発されたのがタイムラプスインキュベーターです。培養器の中にカメラが搭載されていて、培養器を開けるストレスを卵に与えることなく、何時でも観察が可能です。しかしこれではただのカメラ付きインキュベーターです。タイムラプスインキュベーターは”タイムラプス”の名がついている通り、搭載されているカメラが一定の間隔で卵を自動撮影していて、これらの写真を繋げることで卵の発育を動画として見ることができます。これにより発育の過程を遡る事も可能ですし、複数の卵を均一なタイミングで観察する事も可能になります。また、最近ではタイムラプスインキュベーターを導入している施設のデータを集計することでAIを活用し、卵の自動評価も可能になってきています。膨大なデータと比較する事で評価を行う為、人の目での評価に比べ、より平等で正確な評価をする事ができます。
以上よりタイムラプスインキュベーターは卵に対してはメリットしかありません。
一方デメリットとしては、タイムラプスインキュベーターは従来の培養器に比べ高額ですので、治療費が高くなってしまう事が多いです。

筆者より
私の働いている施設では希望する方にのみオプションという形で導入しています。また胚培養においては他にも様々なオプションが用意されている場合があります。その中でタイムラプスインキュベーターは卵のポテンシャルを下がりにくくするオプションです。比較的若い方など、卵のポテンシャルが高い患者様には必要以上になってしまう場合もあります。妊娠する為の必要最低限のオプションを提案できればと日々考えていますが難しい問題です。タイムラプスインキュベーターで培養した卵で妊娠した。これはとても喜ばしいことですが、では普通の培養器で培養した場合はどうだったのかは分かりません。当記事を読む事で少しでもタイムラプスインキュベータを納得いく形で選んで頂けるようになればと思って執筆しております。

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